「WWF 未来47景」で好きな未来予測ベスト5
「WWF」というのは、世界自然保護基金という環境系の国際NGOとのことで、どうやら捕鯨を厳しく非難している団体としても有名らしく、かれらにとってクジラ肉をタンパク源としている長崎県民は敵です。
もっともその一方で、長崎県民たる私は鯨肉が好きではありません。他の肉とは違う味がして面白いとは思いますが、おいしいとまでは思いません。郷土食だろうと伝統食だろうと嫌いなもんは嫌いです。
まあそれはさておき、
未来の風景は、
あなたの行動で変えられる。
とコンセプトテキストに書いてあることからもわかるように、「気候変動でアレなことになっている未来の47都道府県をイラストで表現した」サイトです。
私は環境問題に関心がないわけではないのですが、こういうコンテンツは積極的には見ません。ただ何かのきっかけで読んだところ、ユーモアもあり、工夫もあり、リアルさと誇張のバランスが優れていたので、素直によくできたコンテンツだなあと思いました。
そんな47都道府県分の未来予測のうち、特に私の心に響いた未来予測のトップ5を発表します。果たして皆さんの住んでいる都道府県はあるかな?
※キャプチャ画像はすべて上記サイトからの引用です。
5位: 茨城県(牛久大仏)
<神々しさ部門・1位>
自然の猛威の中にあっても、どっしりと構え立ち尽くす牛久の大仏さん……。
これはもう動き出すでしょうね。目とか光って。まあ動いたところで動いてどうするのという話になる気もしますが……*1。
とはいえ動かなくても「この神々しさ……もしかして大仏様がなんとかしてくれるんじゃないだろうか……?」という精神的安定は地元民の方々にもたらされるかもしれないので、そういう意味では救いのある光景です。
4位: 徳島県(阿波踊り)
<シンプルに心配になる部門・1位>
「伝統芸能が立ちゆかない」という切り口は47景のうちいくつかありますが、その中でもこのイラストは特にリアルな悲壮感に満ちている気がします。華奢な女性であるというのと、目深に被った編笠で表情を読み取れないせいでしょうか。
暑くてまともに踊れない状況で、5人中2人はもはや完全に倒れている、というシーンです。左上から右下の白線を見る限り、おそらく舗装された車道の上だと思うのですが、夏の舗装された車道というのはそれはもう殺人的に熱いです。
そんな場所にはマラソン選手でもこんな倒れ方しないと思うのですが、もしかしてすでに死んでる倒れ方じゃないですか? エライヤッチャ。
3位: 滋賀県(琵琶湖)
<それはそれで楽しそう部門・1位>
この水の透明度よ。
仮にこの水深と透明度がデフォだったら観光客めっちゃ来そう。
この鳥居は高さが12メートルあるらしいです。よく見る写真では四分の一か五分の一くらいのあたりまで湖水に浸かっていて、そして上のイラストでは上部の八分の一くらいが水面から出ているので、これは「水位が7.5~8メートルくらい上がるかもよ」という未来予想図ということになります。
ただ、いくら異常気象による水位の上昇と言っても、雨がざんざか降ったりするだけで8メートルも水位が上がるものでしょうか?
ちなみに今までの水位の上昇の最高記録は3.76メートル。これは治水のスキルがまだ十分でなかったであろう明治時代の話で、8メートルに達するにはこの2倍以上が必要になるわけです。
それに8メートルまで水位を上昇させるには、水が貯まるまでの間、琵琶湖のどの出口からも水を漏らさないことが必要です。それを完璧にやりおおせるには、琵琶湖全体を8メートルの壁で囲むしかありません。
そしてそこまで高い壁、もとい堤防を作ると
- 年々雨がひどくなり、洪水が常態化し始める
- やむにやまれず、琵琶湖周囲に巨大な堤防を作り、洗堰も巨大化する
- 地元住民の災害への不安に応じて堤防はどんどん高くなっていき、そのうち8メートルになる
- 時の滋賀県知事が、一切水を流さずに貯めて貯めて貯めまくる
- ある日突然「今後滋賀を馬鹿にしたら、琵琶湖の水8メートル分を宇治川に全部流すぞ」と京都府を脅し始める
といった地域紛争を誘発しかねません。
つまり「琵琶湖の水止めたろか」ならぬ「琵琶湖の水流したろか」です。
「止めたろか」は琵琶湖が溢れて自滅するリスクがありますが、「流したろか」は流すだけなので琵琶湖的にはノーダメージ。
一方の宇治市は琵琶湖の水に飲み込まれて壊滅の可能性が出てきます。そうなると京都府は「滋賀県を馬鹿にするのをやめる」「つっぱねてこれからも馬鹿にする」という究極の選択を迫られることになります。
シン・琵琶湖
まあ8メートルの堤防は一種のロマンとして横に置いといて、「琵琶湖、巨大化?!」と書いている以上は、WWF的には「琵琶湖周囲はシンプルに水没させたい」と考えているということでしょう。
というわけで、ナチュラルに8メートル分水位が上がると、琵琶湖(シン・琵琶湖)がどうなるかを国土地理院の地図で調べてみましょう。
琵琶湖の湖面の海抜は84~85メートル。それに8メートルプラスすると海抜93メートル。
海抜93メートルの琵琶湖が、WWFが未来予測するシン・琵琶湖です。
水没する赤い範囲には「彦根」「近江八幡」など聞いたことのある地名ばかり。これだけの範囲の人々と暮らしが別の土地に移転するのは非現実的に思えます。街を水没させるより、8メートルの堤防を建てる方がまだ現実的かもしれない。
まあ自然相手のことなので、これはもう仕方ないと割り切るしかありません。
未来予測の中での滋賀県は、8メートルの堤防を維持し続けるため、資金集めとして「異様に高い透明度の湖にボートを浮かべ、底に沈んだ鳥居を眺める」という新スタイルの観光を打ち出したのかもしれません。
2位: 広島県(路面焼き)
<グルメ部門・1位>
路面で焼いたお好み焼きは、うまいゾ!
「作物育たない」「暑くてバテる」「水没する」「蚊が大量発生する」とかどうしてもワンパターンになりがちな47景ですが、そんな中突如ひねってきた広島県。
そもそも鉄板レベルの熱さの路上に平然と膝突いてしゃがみ込むなという話ですが、そんな細かいことはもはやどうでもよくなるひねり方です。
ダンナ、それは来ないよ。
1位: 長崎県(ハウステンボス)
<シャレオツ部門・1位>
強風に耐えられる人は、オランダ!?
強風に耐えられる人は、オランダ!?
強風に耐えられる人は、オランダ!?
いいえ、見間違いではありません。
そうです、ダジャレです。
長崎といえばやはり海ということで、
「九十九島をことごとく水没させて〇島*2にしよう!」
「平和祈念像を水没させてデカい酸素ボンベをつけさせよう!」
とかいう案もあったのかもしれませんが、水没ネタに頼りすぎるのもちょっとな、という思いがあったのかもしれません。
強風に耐えられる長崎県民、誰もオランダ
しかしいくら鯨肉の因縁があるWWF相手といっても、長崎県民はネタ切れを単なるダジャレで押し切ろうとした、などと断言したりはしません。*3
なぜなら「強風に耐えられる人は、オランダ」というフレーズはそのまま
強風に耐えられる人間はいなかった
ということを意味しているからです。
つまりこのイラストが表しているのは、
2XXX年。長崎県は夏になると、人すら吹き飛ばす荒れ狂う強風が常に吹き続ける地獄と化す。人々は耐えられずこの土地を捨て、弱い草木はたった一年で根こそぎ生を奪われ、辛うじて生き残り続ける樹木たちも死に瀕している。
生命の息吹の絶えたテーマパークに残された建物は朽ちるに任せて捨て置かれ、その中でただ一つ残された風車だけが、轟音を立てて四枚の羽を回転させて叫ぶ。夏よ、早く、早く終わってくれ――
……という惨憺たるシーンであるとも推測されるからです。
もしもそうなら、WWFは、47都道府県の中でも長崎にはとりわけ深刻な危機が訪れると考えているのかもしれません。何せ人が全く存在できないのですから。
長崎県民は全員風で吹き飛ばされ、長崎県民の知能でそれなりにがんばって築き上げてきた文明も根こそぎ吹き飛ばされ――そんな悲惨な状況を普通にテキストになどできるわけもなく、あえてダジャレで表現することで他の46景とのバランスを取った、ということなのかもしれません。うん、きっとそうだ。
気候変動の前に若者の流出で誰もいなくなる可能性の方が高いよね、とか言ってはいけない